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【夏休みに親子で読みたい本】カリグラフィーの練習の合間にドイツ児童文学で心を休めてみませんか?

ユミ

夏休みが近くなってきました。
今年は6月から酷暑日があったりして、すでに夏休みにした方がいいような気温ですよね。

でも最近は学校にクーラーが設置されているので快適なら長期間休まなくてもいいのでは…と思ったり、さらには学校へ行ってくれた方が親としては楽なんだけど…と思ったりしています(笑)(現在ウチのこどもは小学生と中学生)

夏休みの宿題といえば読書感想文。私にとっては地獄でしたがみなさんはどうですか?

文章を書くのが地獄だった私が今こうしてブログを書き、その上これから書こうとしている内容が読書感想文のようなものなのですから人生わからないものですね。

そんな私が書きましたがどうかお付き合いいただけたら嬉しいです。

この記事を書くわけ

どうして読書感想文のようなものを書こうと思ったかというと『名もなきアートピア』のイラストに関係があるからなのです。

(アートピアのイラストは「アートピア百景」としてまとめています。)

「庭でスケッチ」と題したイラストは名もなきアートピアのユミが天気の良い日にアトリエの庭のテーブルでスケッチをしているところです。スマイリーはもっぱら遊んでいて、大好きなリンゴもかじっている。というものですが、この絵はヴァルター・トリアーという人が「ふたりのロッテ」という物語のために描いた挿絵へのオマージュとなっています。

「庭でスケッチ」
ヴァルター・トリアーによる「ふたりのロッテ」挿絵

挿絵では物語の主人公のロッテとルイーゼがある秘密計画を練っているところです。

トリアーの絵は最小限の線でしか描かれていなくてしかもゆるい感じなのですが、それでも見る方の頭の中では情景がしっかりと再現されるというか、世界が出来あがってくる感じがします。白黒の挿絵でもなぜか頭の中ではカラーでイメージできたりするのです。

そしてユーモアがあって見ていてとても楽しくなります。

この線のタッチを真似したくて、小学生のころ模写したことがありますが描いてみると意外と難しいことが分かった記憶があります。そりゃあ簡単に描けるわけがありませんよね。

話が逸れてしまいましたが、このトリアーが挿絵を描いた本こそが夏休みにおすすめの本なのです。

夏休みに親子で読みたい本

おすすめの本は4冊あります。

一冊は先ほど書いた「ふたりのロッテ」

あとの3冊は「エーミールと探偵たち」「飛ぶ教室」「点子ちゃんとアントン」です。

この4冊に共通している点は、作者はエーリヒ・ケストナー(1899-1974)、挿絵がヴァルター・トリアー(1890-1951)というところです。

ケストナーはドイツの作家・詩人で児童文学では世界的に有名なため、ご存じの方も多いと思いますが、「児童文学なんて…」と読んでこなかった人にはいい意味で大いに裏切られます。

子供が読んで楽しいのはもちろんですが、大人が読むとギクッとさせられたり、クスッと笑えたり、ウルッときたり深く考えさせられたりする場面がたくさんあります。

登場人物はどの人も人間味に溢れ、ケストナーの人間性の深さを感じられます。

書かれたのは70年から90年くらい前ですが、いつの時代も変わることのない普遍的な道徳観が時代を感じさせることなく書かれています。だからと言って堅苦しくなくユーモアがあって温かいところがケストナーの魅力だと私は思うのですが、その魅力を存分に絵に表しているのがトリアーなのです。

トリアーとケストナーは「エーミールと探偵たち」(1929年)の頃に知り合い、「点子ちゃんとアントン」(1931年)、「飛ぶ教室」(1933年)、「ふたりのロッテ」(1949年)などケストナーの児童文学すべての挿絵を担当しています。きっと信頼関係ができていたのでしょうね。

「ふたりのロッテ」

夏休みに過ごすサマーキャンプで出会ったルイーゼ・パルフィーとロッテ・ケルナーは瓜二つの顔。ふたりは生まれた日も生まれた場所も同じ。色々話すうちに双子だったことを突きとめたふたりはある計画を思いつきます。
家に帰る日、髪型も持ち物も全部取り換え、お互いの情報は全てノートに書き留めて、ふたりは「相手の家」に帰ります。もちろんこのことはふたりだけの秘密。色々な試練を乗り越え、ハラハラする展開もありますが最後はハッピーエンドとなります。
トリアーの最後の作品です。

私が小学校5年生の時、夏休みに読む本としてたまたま借りたこの本が運命の出会いとなりました。これがきっかけでケストナーの本を読むようになりましたし、トリアーの絵に惹かれペン画を知るきっかけとなりました。

「エーミールと探偵たち」

ベルリンに住む祖母に仕送りのお金を届けるために一人で汽車に乗ったエーミールは、居眠りしている間にボックス席の向かいの席に乗り合わせた山高帽の男に大事なお金を盗まれてしまいます。

ある事情があって警察のお世話になりたくないエーミールは、泥棒を追いかけて見張っていましたが、そのとき偶然知り合ったグスタフという男の子が事情を聞いて泥棒の追跡に協力してくれることになりました。
グスタフが仲間をたくさん集めてくれたおかげで、みんなで協力してみごと泥棒を追い詰めます。

スマホもネットもない時代、ベルリンの街で繰り広げられる少年たちの作戦が今の子供たちには新鮮に感じるのではないでしょうか。

また、エーミールの大金を持っている緊張感、女手一つで育ててくれている母への思い、優等生だけれどもこのスリルを味わって楽しんでいるところなどエーミールの気持ちがよく伝わってきてエーミールが大好きになってしまいます。

もちろん他の登場人物も魅力的なのですが、スーパーヒーローみたいなわけではなくどこにでもいるような人たちなので自分と重ねられる部分がどこかにあります。それでいてみんなそれぞれ輝いていて「みんな違ってみんないい」と思わせてくれるところが読み終わった後に温かい気持ちにさせてくれます。

お話が本格的に始まる前に、登場人物や、重要な場所の説明が10個ありますが、それぞれにトリアーの素敵な挿絵が付いていて想像力が掻き立てられます。

「飛ぶ教室」

ギムナジウム(高等中学校)に通う寄宿生5人のクリスマス休暇前のお話。

5人には尊敬する「正義さん」ことヨハン・ベク先生がいますが、正義さんに話せないようなことは学校の外の「禁煙さん」と呼ばれる人を頼りにしています。
禁煙さんは国有鉄道の廃棄車両を住まいとしていて、時々ピアノを弾いてお金を稼いでいるということしか少年たちは知りません。

ある事件が起き、門限を破ってしまった5人は正義さんの元へ突き出されますが、そこで正義さんは自分の昔話をします。それはある友情の物語で、今その友人は行方不明だということでした。

その後、正義さんの探していた友人は禁煙さんだということに少年たちが気づき、ふたりは再会を果たします。クリスマス直前に行われた「飛ぶ教室」というお芝居の準備もある中、いろいろな出来事が絡んで5人の少年たちと大人2人の人間模様がさわやかに、感動的に描かれた傑作です。お金がなくてクリスマス休暇に家に帰れない少年に正義さんが気づき、両親のもとに帰れたラストは涙なしには読めません。

今回、久しぶりに読み直したのですが、子供のとき読んだのとは違った感動で大人こそ読んでほしい物語だなと改めて感じました。そして正義さんや禁煙さんのような大人になっていないと思われる自分を反省したりもしました。

ケストナーは子供の心を書くのが本当に上手いのですが、子供の心を忘れないまま大人になった人なのだと分かる箇所があるのでここに引用しておきます。

 しかたがないので、ある作家から贈られた子どもむけの本を読みはじめた。けれど、すくに放りだしてしまった。腹がたったからだ。なぜかと言うと、この人は、この本を読む子どもたちに、子どもというものはのべつまくなしに楽しくて、どうしていいかわからないくらいしあわせなのだと信じこませようとしていたからだ。このうそつきの作家は、子ども時代はとびきり上等のケーキみたいなものだと言おうとしていたのだ。
 どうしておとなは、自分の子どものころをすっかり忘れてしまい、子どもたちはときには悲しいことやみじめなことだってあるということを、ある日とつぜん、まったく理解できなくなってしまうのだろう。
ー中略ー
人生、なにを悲しむかではなく、どれくらい深く悲しむかが重要なのだ。誓ってもいいが、子どもの涙はおとなの涙よりちいさいなんてなんてことはない。おとなの涙よりも重いことだって、いくらでもある。誤解しないでくれ、みんな。なにも、むやみに泣けばいいと言っているのではないんだ。ただ、正直であることがどんなにつらくても、正直であるべきだ、と思うのだ。骨の髄まで正直であるべきだ、と。

引用元:「飛ぶ教室」エーヒリ・ケストナー 池田香代子 訳

ケストナーは本の中で、作家になりたい少年と絵の得意な友達を登場させ、将来本を書いたらその友達に挿絵をしてほしいと思っているということを描いています。このあたりがケストナーとトリアーの友情を感じられてジンときます。ナチスドイツが台頭してきた中で書かれた作品です。詳しくは訳者の池田香代子さんがあとがきで書いていますが必見です。

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「点子ちゃんとアントン」

お金持ちの家の点子ちゃんはお父さんは仕事で忙しく、お母さんは子供のことはほったらかしで遊んでばかり。養育係のアンダハトさんは彼氏に貢ぐためのお金を稼ぐため、夜な夜な点子ちゃんを連れだしてマッチ売りの少女をさせています。

点子ちゃんの友達のアントンは母子家庭でしかも母親は時々寝込んでしまうのでアントンが家事をなんでもこなし、夜は靴紐を売って収入の足しにしています。
ある時、アンダハトの彼氏が点子ちゃんの家に盗みに入ろうとしていることに気づいたアントンは機転を利かせて家政婦のベルタに連絡し泥棒は捕まります。
マッチ売りをしているところを点子ちゃんのお父さんとお母さんにばれてしまい、家に連れ戻されると泥棒が捕まっていてお父さんは混乱しますが、話をすべて聞いたお父さんはアントンに自宅の一室を与え、アントンのお母さんにも住み込みで働いてもらうことを提案するのでした。

点子ちゃんのユーモアたっぷりの性格も面白いですが、登場人物の性格が文章は少なくてもそれぞれよく表れていてさすがケストナーと思います。
各章の最後には「立ち止まって考えたこと」と題したその章に対する考察や登場人物についての考察が書かれていて、読者としても一緒に深く考えることができる工夫が面白いです。尊敬とは何か、誠実とはどういうことか、友情とは何か、そういうことを教えてくれる物語だと思います。

最後にエーミールが出てくるサービスがにくい演出となっています。

まとめ

4冊紹介しましたが読みたいと思った本はありましたか?
どれも小学校低学年なら読み聞かせ、大きい子は一人でも読めると思います。

この夏はお子さんと一緒に、お子さんがいなくても、ケストナー作品で子供時代を追体験して硬くなった心をほぐしましょう!トリアーの絵がそれをさらに後押ししてくれますよ。

ケストナーは児童文学者というだけでなく、社会を風刺した小説や、大人向けの恋愛小説、詩集、ドラマの台本なども手掛けていて映画化されたものもあります。
ナチス時代に焚書にされた作品がありながらも亡命せずに書き続けました。
世の中がきな臭くなっている今、同じようにきな臭い中で書いたケストナーの作品を読んで今一度人としての在り方を確認できると良いかもしれませんね。

ユミ

個人的に好きなものを今回も自由に書いてしまいましたが、最後までお読みいただきありがとうございました。