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永遠のテーマ「O」カリグラファーが目指すは手書きの「スーパー楕円」?!

スーパー楕円のアイキャッチ

以前の記事「カリグラフィーで字形をうまくとらえるコツ【ネガティブスペースを見る】」で「O」(オー)は永遠のテーマというお話をしました。

ルビンの壺


完璧な「O」を書くことは難しいということでカリグラフィー初心者の方を怯ませてしまったことと思います。

今回はもしかしたらさらに怯ませてしまうかもしれないので、勇気のある方は読み進んでください(笑) というのは冗談ですが、個人的な「O」に対する熱意を語る記事になっていますので興味のある方は読んでみてくださいね~。

きれいな円を描くのは難しい

手書きで円を描くのって難しいですよね。

子供のころ何かのテレビ番組で見たのですが、ディズニーのアニメーターがミッキーの丸い耳や目などの輪郭を一発でスラスラと描いていてものすごく驚いた思い出があります。
訓練でできるようになると言っていたのでやってみたのですが全然できなくて諦めた覚えがあります。たぶんその日しか描いていなかったのだと思いますが(笑)

円を描くというと「円相」が思い出されます。

円相

「円相」とは円を一筆で書く禅(禅宗)の書画の一つです。
円という単純な形でありながら無限や全てのものの始まりであり終わりである、宇宙全体、といった禅の悟りの境地を表しています。

悟りの境地に至らなければ書けないというわけではなく、精神をリラックスさせるためにも心を落ち着かせて静かに円を書くことは良いことみたいです。

このように円というのは極めるのは難しいのですが美しく完璧なものにはやはり魅力を感じるため描けたらいいなと思いますよね。

カリグラフィーの美しい円

カリグラフィーでローマンキャピタル体を書く場合、少しでも変な「O」を書こうものならそれだけで全体がダメに見えてしまいます。

シンプルな形であるが故の美しさが際立つ書体なので一ミリの隙もあってはならないのですが、これを書けてしまうカリグラファーがいらっしゃるんですよね。

たくさんいらっしゃる中で私がいつもお手本にさせてもらっている方をここに上げさせてもらいます。

皆さんもご存じかと思いますが、ジョン・スティーブンスさんと、白谷泉さんです。

お二人の字はこちら↓

白谷泉さんのQ

白谷泉さんのO(Q)   出典:「カリグラフィー・ブック」より

お二人ともうっとりするくらい素敵な「O」を書かれます。特に平筆で書くローマンキャピタル体においては世界で最もすばらしい技術をお持ちだと思います。もちろん他の書体も最高峰ですよ。

平筆で書く「O」、ホントに難しいです。ローマンキャピタル体の場合少し縦長の方がバランスがいいので絶妙な形の円になっています。

そして円の中のネガティブスペースは美しい楕円です。

私も練習を繰り返していますがなかなか納得いくものが書けるようになりません。
時々やった!書けた!と思うことがあるのですが、たまたまなのでコンスタントに書けなければ作品を作れません。
筆の向きや力加減を意識していると、中の楕円がいびつになるし、中の楕円を見ながら書くと筆の方がおろそかに。左半分が良くても右半分がダメだった…といった感じ。
作品となったら緊張して絶対失敗すると思うんですよね。まだまだ修行です。

ネガティブスペースの楕円が美しい

何度もお二人の「O」を見て練習しているうち、中の楕円の美しさも気になるようになりました。

このネガティブスペースの楕円、実際は楕円ではないんですよね。便宜上楕円と呼んでいますが楕円は長軸の方の丸みが尖っているのでネガティブスペースが楕円なら「O」はもっと縦長になってとんがります。

それでこの何とも言えない楕円ぽい形は何というのだろうと思っていたら、たまたま「スーパー楕円」というものがあることを知り、もしやこれなのではとドキドキしながら調べてみるとドンピシャだったのです!

スーパー楕円とは

スーパー楕円とは楕円よりも尖り具合の少ない、角が丸い長方形よりは丸みのある形です。

「スーパー楕円」という言葉は数学用語ではないようですが、もともとGabriel Lamé(ガブリエル・ラメ)というフランスの数学者が研究していた曲線をPiet Hein(ピート・ハイン)というデンマークの数学者がデザインに応用することで広まりました。ピート・ハインはデザイナーでもあり、哲学者でもあり、詩人でもあるという多才な人でした。

彼がデザインしたものでフリッツ・ハンセンのテーブルシリーズやペンダントライトのスーパーエッグなどは有名です。

スーパー楕円が使われているものとしてはマーガリンの容器やアップル製品のアイコンなどがあります。楕円よりも中の面積が広く、文字を入れるのにもデザインしやすいんですね。

スーパー楕円を式と図で表すと下記のようになります。

スーパー楕円の式と図形

n=2のときに楕円、n=2かつa=bのとき正円、n>2ときスーパー楕円になります。

一般的にn=2.5のときが美しいスーパー楕円とされていて、ピート・ハインがデザインしたスウェーデンのセルゲル広場もn=2.5となっています。

セルゲル広場

セルゲル広場 出典:Wikipedia

さて、上の図の中でローマンキャピタルの「O」のネガティブスペースに近いスーパー楕円はどれになるかというと、a=1, b=0.75, n=2.5のものを90度回転させたものではないでしょうか。

ということはn=2.5なのでやはり美しいスーパー楕円だということですね!

スーパー楕円はイラストレーターなどのソフトを使わなければ書けないのですが、STEM Blogさんのサイトでは数式のパラメータ(a、b、n)を好きなように変えてどんな楕円になるかシミュレーションできるので興味のある方はやってみてくださいね。

STEM Blogさんの円の方程式の一般化

数式とコンピューターを使わなければ書けないスーパー楕円を、前述の卓越したカリグラファーは美的感覚から生み出してしまって手書きで書いてしまうのだからすごいです!

スーパー楕円を超える⁉︎絶妙な形

ここまでは正統派のローマンキャピタル体の「O」についてでしたが、次はジョン・スティーブンスさんのプレイフルなローマンキャピタル体の「O」を見ていきたいと思います。

ジョン・スティーブンスさんのプレイフルなローマンキャピタル体

出典:John Stevens Calligraphy

この「O」は少しつぶれた感じになっているのですが、でもそれは下手な人が書いたつぶれた丸ではなくて何とも言えないコロンとした可愛さのある「O」なんです。

私はその形のことを勝手に「押された茹で卵」と呼んでいるのですが、転がるようで転がらない、つぶれたようでつぶれていない、弾力性さえ感じられる何とも言えないすごく絶妙な形なんです。これはもうスーパー楕円を超えた所にあるその人にしか描けない「円」なのではないかと私は思います。

あ、皆さん分かりますか?引いてませんか…?

正統派のローマンキャピタルからプレイフルなローマンキャピタル、イタリック体やアンシャル体などどんな書体になってもそれに合わせて「O」の形も自由自在に変えられる、彼のような卓越した技術を早く身に着けたいものです。

まとめ

ちょっとマニアックな記事になってしまいましたがここまで読んでいただいてありがとうございます。永遠のテーマ「O」という訳がお分かりいただけたでしょうか?「O」の奥深さが少しでも分かっていただけたら嬉しいです。

以前ワークショップに参加した際、「O」ばかり根詰めて練習しているとノイローゼになってしまうよと言われたことがありますが、皆さんも気を付けて練習はほどほどにしてくださいね!

「O」への熱意、共感してくださった方、是非コメントしてください。お待ちしています。

最後までお読みいただきありがとうございました。

2件のコメント

カリグラフィを始めたばかりで、スペーシングについて調べていて、こちらのページにたどり着きました。

とても参考になるページばかりですが、とくにこのページに熱量が高いように感じたので、こちらにコメントさせていただきます。

私は仕事でキャラクターをつくったりすることに携わることがあるのですが、丸を作ると本当に製作者の個性がでるのが、ずっと不思議でした。同じ、製図からつくってもほっこりした丸を作る人、シャープな丸を作る人。着ぐるみだと、丸の集大成なのでほんと作り手のカラーが出るのが不思議です。

3Dプリンターが手軽になるにつけ、こういう部分はへっていってしまうかもしれませんけど。。。

現在、地方に住んでいるので、都内であれば伊藤屋か世界堂に行けば済んでしまうことが、本当に紙とかインク探しに苦労していていろいろ助かりました。
引き続き拝読させていただきたいと思います。元気をもらえる素敵なページをありがとうございます。

momoさんコメントありがとうございます!ブログを始めてから初のコメントにこのような素敵なコメントをいただけてとっても嬉しいです!
「0」へのマニアックな気持ちが伝わったことも嬉しいです。「丸を作ると本当に製作者の個性がでる」というところ本当にそうですね。
momoさんならきっと素敵な字が書けるようになりますよ!
ブログの励みになるようなコメントをありがとうございました。

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